愛知県立大学 国際戦略方針
1.国際戦略方針の策定にあたっての現状と課題
(1)現状――学内外の状況を踏まえて
愛知県は外国籍住民の数で全国2位を占めるほど、いまや多文化が進んだ社会となっている。留学生の受入拡大を掲げる従来の政府方針に加え、2018年末の法改正によって2019年4月以降には、とりわけ近隣の東南アジア諸国からの多数の外国籍労働者の来日が見込まれる。こうした状況下で多文化共生の理解を深める取組みは、ものづくりを前面に押し出す愛知県にとって喫緊の課題である。
学内ではここ数年、ヨーロッパやアジアの国々における大学との協定校の拡大、英語による授業を実施する非英語圏の大学への学生派遣の可能性の模索、さらにはダブル?ディグリーや共同学位の複数学位取得制度のような大学院協力に見られるように、学術交流は質量ともに拡大し、内容も多様化してきた。これによって、学生の選択肢は大幅に拡大した。加えて、実践教育(プログラム修了認定証の発行)と学術交流(教養教育科目)の2つのグローバル関連事業は実施から3年間が経過し、これまでの活動内容の検証とそれを踏まえた内容の拡充を考える段階に入っている。
(2)課題――現段階の交流協定の検証
学内外の現状を踏まえ、第3期中期計画に照らしてこれまでの活動内容を検証すると、今後取り組むべき課題として、大要、以下の3点を挙げることができる。
第一に、国際戦略方針に基づき学部の独自性および学部間連携を強みとした国際交流のあり方を検討する必要がある。これは、制度整備、研究成果の発信、教育における実践効果の3つの面からアプローチできる。まず、学部における採用や昇任の人事計画に国際戦略方針を反映していくことは、学部内の制度整備に関わる。単独学部あるいは学部間連携で主催する国際交流関連事業には、研究成果の発信の意味を込めることができる。そして単独であれ連携のかたちであれ、各学部における日本語以外での授業の可能性を検討することには、あらたな教育実践の効果を期待することができる。
第二として、交流協定の理念をよりいっそう明確にしていくことである。現状で示されている通り、学生派遣の際の選択肢が拡大した効果が認められる一方で、交流実績の乏しい交流協定も存在する。これまでの交流活動を深め発展させるための既存の協定の検証と改善の必要性が認められる。その際の視点として、新規の学術交流協定を締結するにあたっては、当該地域の大学でなければならない理由の明確化や、研究面での協定校との人的交流の実績や今後の共同研究の可能性の模索、それとともに学生の派遣と受入を不可分なものと捉える観点からの学生交換の実績?留学プログラム?支援体制等が挙げられる。
この点と関連して、学内でのグローバル関連事業の基盤の見直しと発展が欠かせない。グローバル化する世界での「活躍」や地域への「貢献」が強調される中で、本学がめざす「活躍」や「貢献」が意味することがらの明確化が必要である。この点が具体的にイメージされることによって、研究者間の協働も学生交換もともに、意義ある交流となる。
最後に、国際戦略方針の策定と併せて、全学的に国際交流活動を担う戦略的な部署の設置が急務である。これまで展開されてきた本学での交流活動は、学生支援課の国際交流室と当該協定の窓口となっている学部学科の教員個人が担ってきた。学生支援としての留学生対応の業務とは切り離し、大学全体の国際交流の戦略指針を示し、学内外の意思疎通を円滑にしつつ、研究と教育における連携および協力を促進する統括的部署の必要性が求められる。そこには、蓄積される活動実績の積極的かつ効果的な発信のための広報戦略も含まれる。
2.基本理念と活動目標――世界における愛知県立大学のミッションを自覚するために
(1)基本理念
【策定方針】大学を取り巻く環境を見据えた長期的展望であることが望ましい。本理念は、正规赌篮球软件ビジョンに基づく大学の方向性と一体を成して、愛知県立大学全体の国際戦略方針の骨子を示すものでなければならない。
① 研究がつながり、教育をつなぐ〈顔を見せる交流〉
交流の基本は人にあることを再確認する。越境する教員?研究者と学生の人的交流は、交流主体相互の表情が見えてこそ、意味ある学術交流となる。
② 人とその地を結ぶ〈足元からの交流〉
世界がグローバル化しても人はローカルに存在するのであり、今後の地域社会から日本や世界の課題を見据えた交流をめざす。この視点が「ものづくり」を標榜する愛知においてもつ意味は大きい。
③ 違いを乗り越え、相互理解を実現する〈国際平和のための交流〉
格差や対立に特徴づけられる「グローバル化社会」の課題についての深い認識に基づき、置き去りにされる人やモノを救い出す視点からの研究と教育のための人材育成をめざす。
(2)活動目標
【策定方針】基本理念を具現化するための指針。前出の「課題」を踏まえ、国際戦略的観点から第三期中期目標?計画中の取組みを整理?再構成することによって設けられるべきものである。
① 対話?連携促進のための制度設計(国際的な研究?教育のための環境整備)
学部間連携と海外大学?研究者との連携?協力を主軸とする国際交流を展開するにあたり、全学規模の国際交流の指針と戦略を示し、研究と教育における対外的な連携や協力を促進し、相互の円滑な意思疎通を図るために、学生支援としての留学生対応とは異なる国際戦略室を副正规赌篮球软件(総括)の下に置く。戦略企画?広報室との連携の下に、関係部局と協働して、大学全体で蓄積される積極的かつ有意義な交流の成果を効果的に発信することをめざす(イメージ図参照)。研究とそれに関わる事務手続を相互に理解するための教職員で構成する学内研究会なども考えられてよい。それは、非研究者にも伝わる研究の普遍性を自覚し、世界に通用する研究をめざす契機となりうる。
② グローバルな視野で地域社会の要請に応える研究活動(教育で実践される研究活動)
海外協定校を拠点にしつつ、充実した個人研究をもとに学際的かつ大学間共同研究体制(国内外への外部資金申請等への関与)を確立する。延いてはそれが、文化的豊かさをもつ地域の学術的寄与となることが望ましい。この体制における研究主体、課題、方法、成果発信の過程での多様性を模索し、高度で挑戦的な研究として積極的に打ち出すことをめざす。
③ 日本語教育の充実化と異文化間接触に基づく国内留学教育の実施(多様な教育実践)
日本語教育を充実化し、各学部における国際交流(受入?派遣留学生?外国語教育の在り方等)の方針に基づき、学部間連携を基礎とした留学生教育体制を整えつつ、留学生受入の拡充および派遣留学生の促進を図る。留学生に特化した科目だけでなく、日本人学生と留学生が共に学べる教養教育?専門科目を拡充することで、特色ある国内留学の効果を引き出す。
④ グローバル化がもたらす課題に目を向ける人材育成(愛知県立大学生の活躍と貢献の場)
協定間相互の大学の特色(学部構成や専門性)を活かした研究交流と学生交換によって、グローバル化がもたらす多様な課題のうち、たとえば弱者?マイノリティー等に適切に対応できる国際性と地域への視点を兼ね備えた人材育成をめざす。愛知県の地域的特色と今後の進展を考慮すれば、愛知県立大学の国際戦略方針の3つの基本理念の究極の目的は、ここに凝縮される。